昨年7月に上場した「星野リゾート・リート投資法人」。ハイエンドなリゾート施設で有名な星野リゾートグループの物件を中心にポートフォリオを構築していることで知られています。2020年の東京オリンピックに向けて、リゾート・観光ビジネスが注目されるなか、ホテル・旅館を中心に投資するJ-REITの可能性はどうなのか。星野リゾート・アセットマネジメント代表取締役社長の秋本 憲二氏に話を伺いました。
今年5月、公募増資を行い、新たな物件を取得しました。
その概要について、教えてください。
秋本氏今回の公募増資には二つの特徴があります。
まず第一に、「星のや 京都」を組み入れたことです。この施設は、船を使わないと行けない場所に建てられていることに加えて、木造建築です。REITに木造建築の物件を組み入れた事例というのは、過去全くありません。もちろん世界的に見ても、です。その意味では、非常にイノベーティブであり、不動産投資に一石を投じたのではないかと考えています。
第二に、星野リゾート・リート投資法人というと、やはり「星のや」など星野リゾートグループが運営する物件がポートフォリオの中心と思われるでしょうが、今回は星野リゾートグループが運営している物件以外のものにも投資しました。ソフト面とハード面の両方を見て魅力的な物件であれば、今後も星野リゾートグループ運営物件以外にも投資していきたいと考えています。
木造建築を組み入れたというのは、
どういう点でイノベーティブなのでしょうか。
秋本氏「駅前の鉄筋でできた新築の頑丈な建物には価値があり、車では行けないところにある古い木造には価値がない」というのが、不動産業界の常識であり、そのような木造の建物はリートには組み入れられないと多くの人が思っていました。
ところが、不動産の価値は、築年数や構造のみに基因して決まるものではなく、その不動産から得られるキャッシュ・フローから決まるものです。これもまた当たり前な原則なのですが、古い木造は価値がないという先入観の下、今まで木造の建物をリートに組み入れた人はいなかった訳です。
そういう意味では、不動産業界に精通すればするほど、我々の取り組みは画期的に見えているのだと思います。
星野リゾートグループ以外のところが
オペレーターになっている物件も組み入れています。
それに対してマーケットの反応はどうでしたか。
秋本氏今回、星野リゾートグループ以外の外部オペレーターが運営している物件を組み入れました。SHRロードサイドインという会社がオペレーターになって運営しているロードサイド型のホテル21物件を組み入れました。当初は賛否両論いただきましたが、皆さまにしっかりとご説明させていただいたことで、多くの投資家の方々が今回のディールに理解して下さっていると考えております。
なぜ、星野リゾートグループ以外のロードサイド型ホテルを買ったのかということですが、これはポートフォリオの分散効果を高めるうえで、非常に有効だと判断したからです。
通常、リゾート系ホテルや旅館の需要がある日数というのは、年間を通じて100日しかありません。でも、ロードサイドのホテルは365日中、365日売ることができます。ビジネスユースやレジャー目的の様々な方が泊まられるからです。つまり、需要が安定しているわけです。
また、ゼロから開発されたハードには経済設計が施されており、21物件はいずれも低コスト化が図られています。さらには、こうした低価格のロードサイド型ホテルというのは、都市部にあるビジネスホテルに比べて、オペレーターの競合が少ないマーケットです。
こうした点から、ロードサイド型ホテル21物件は、差別性があり競争優位性が実現されているビジネスモデルであると考えています。
●星野リゾート・リート投資法人のポートフォリオ
全体 | 星のや | リゾナーレ | 堺 | その他 | |
---|---|---|---|---|---|
保有物件数 | 30 | 2 | 1 | 6 | 21 |
取得価格の合計(百万円) | 33,360 | 10,385 | 4,500 | 4,475 | 14,000 |
投資比率(%) | 100.0 | 31.1 | 13.5 | 13.4 | 42.0 |
一般的に、旅館やホテルなどを組み入れたREITは、
ボラティリティが高いと言われます。
ホテルの売上が景気や天候などに左右されやすいからというのが、
その根拠ですが、
この点、星野リゾート・リート投資法人はいかがですか。
それに対してマーケットの反応はどうでしたか。
秋本氏確かに、一般的にはそのように言われていますが、星野リゾートグループが運営している施設は非常に安定しているという実態があります。過去、新型インフルエンザの大流行や、リーマンショック、そしてあの東日本大震災でさえ影響をほとんど受けませんでした。
その理由を考えてみました。すると、2つの指標で面白い動きが見られたのです。
それは、「認知率」と「利用意向度」の数字の推移です。認知率というのは、星野リゾートの名前を見聞きしたことがあるかどうかというものです。そして利用意向度は、実際にこれらの施設を使ってみたいかどうかを示しています。これら両方の数字が、平成22年以降からの数字を見ても、年々上昇傾向をたどっています。
まず認知率ですが、平成22年は26.8%で国内15位でした。それが今は50.8%まで引き上げられ、国内7位まで上がってきています。星野リゾートグループのブランディング戦略に基づく広報活動が効いているのだと思います。星野リゾートグループは、これからもブランディング戦略に基づいた広報活動をしっかり行い、認知度を挙げていく方針のようです。
そして利用意向度ですが、こちらはもともと高い数値を示していましたが、少しずつ上昇しております。平成22年は42.2%だったのが、平成25年には45.4%となっています。
このように、認知率の向上と利用意向度の向上が掛け合わさって、結果的に売上増加につながっているのだと思います。ですから、我々としては今後もこの2つの指標を引き上げ、かつ上位を維持することによって、収益の安定化は十分に図れると考えています。まさにオペレーターの付加価値がファンドのキャッシュ・フローにも好影響を与えている好例だと考えています。
ホテルは昨年あたりから海外ファンドなどによる売買が活発になっていて、良い物件が取得しにくい状況だと聞いています。
運用戦略などに影響はありませんか。
秋本氏確かに昨年あたりからマーケットが急に過熱気味になっているという感じはします。実際、入札で物件を取得するのは、相当に大変なようです。
でも、我々は、誰もが欲しがり、買おうとする物件では、差別化を図るのが困難だと考えています。それこそ、「星のや 京都」ではありませんが、一般的にREITの投資対象としては不適格と言われているものでも、優れたオペレーターによって高付加価値を維持しているような物件に投資するのが、星野リゾート・リート投資法人の特徴でもあります。
特にリゾートホテルや旅館というのは、優秀なオペレーターがいないと手を出しにくいので、オペレーターリスクが高い物件には、誰も手を出そうとはしません。
でも、星野リゾートグループは、高い生産性を達成する独自の運営手法を既に持っています。これらオペレーターとしてのノウハウを活用して、さまざまな案件を再生させてきました。つまりオペレーターリスクが高い案件でも、それを再生して付加価値を高めることが可能です。
このような星野リゾートグループの運営ノウハウをフル活用できることが我々の強みですから、昨年以降の過熱したマーケットにおいても、競争力が高く、かつ取得競合が少ない物件を対象に、多くの場合相対での取得交渉を目指しています。
最後に、
今後の戦略について伺えますか。
秋本氏現在、星野リゾート・リート投資法人の資産規模は333億円なのですが、これを1年から2年後には500億円まで引き上げるのが、当面の目標です。
今ほど、観光が注目されている時代はないといっても良いでしょう。まさに観光は成長産業のひとつといっても良いと思います。そのなかで、一般の人々にも星野リゾート・リート投資法人を通じて、観光産業の成長に参加していただく。それが分配金という形で、投資家への還元にもつながっていく。もっともっと観光産業を盛り上げるためにも、星野リゾート・リート投資法人を成長させていきたいと考えています。
≫[第2回] 星野リゾートブランドの魅力を体験「日本型のおもてなしと高い客室稼働率の秘密」
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