1はじめに
現在、東京証券取引所に上場するヘルスケアリートは3銘柄となっていますが、東京証券取引所では、ヘルスケアリートの更なる上場促進のため、当サイトによる情報発信や、ヘルスケアリート上場相談窓口の設置等、様々な取り組みを行っています。また、政府にとっても、ヘルスケアリートの普及啓発は「『日本再興戦略』改訂2015」(2015年6月閣議決定)に盛り込まれる等、重要な施策として位置付けられています。 そうした中、官民を挙げた取り組みの一つとして、金融庁、国土交通省、不動産証券化協会、そして東京証券取引所の共催により、2015年11月以降4回に渡って、ヘルスケア施設関連事業者を対象にした特別セミナーを実施しました。
そこで、「ヘルスケアリート入門」第5回では、本セミナーについてご紹介したいと思います。
2セミナーの概要
(1)対象者
ヘルスケア施設の運営にあたっては、ヘルスケア施設のオペレーターはじめ様々な立場の関係者が重要な役割を果たしています。しかし、従前より、業界関係者等からは、「ヘルスケア施設の運営に係る関係者の全てが、金融や不動産証券化に関する知識を十分に有しているわけではなく、そのことがヘルスケアリート普及の阻害要因の一つになっている」旨の指摘もありました。そこで、本セミナーにおいては、ヘルスケア施設のオペレーター、デベロッパー、医療法人関係者等、これまでリートに馴染みの薄かったと考えられる方を主要な対象とすることにしました。また、主催者側と参加者間における双方向での対話や目線を合わせることを重視して開催することとしました。
(2)開催地
本セミナーは、全国のヘルスケア施設の関係者に対して啓蒙活動を行うという趣旨から、既上場ヘルスケアリートの上場時の主幹事証券会社による会場提供等の協力の下、東京のほか、仙台、大阪及び名古屋の3都市でも開催されました。
(3)講師
関係省庁担当官のほか、既上場ヘルスケアリートの資産運用会社や、当該リートの運用するヘルスケア施設のオペレーター等にもご参加頂きました。
【本セミナーにご参加頂いた資産運用会社、オペレーター等(敬称略・順不同)】
- ジャパン・シニアリビング・パートナーズ株式会社(ジャパン・シニアリビング投資法人の資産運用会社)
- ヘルスケアアセットマネジメント株式会社(ヘルスケア&メディカル投資法人の資産運用会社
- 大和リアル・エステート・アセット・マネジメント株式会社(日本ヘルスケア投資法人の資産運用会社)
- 株式会社コミュニティネット
- 株式会社イリスケアー
- 株式会社アズパートナーズ
- シップヘルスケアホールディングス株式会社
- 株式会社チャーム・ケア・コーポレーション
- あなぶきメディカルケア株式会社
3セミナーの模様
それでは、セミナーの模様について紹介したいと思います。セミナーのプログラムは各回とも概ね、主催者による挨拶に続き、国土交通省による国の施策等についての説明が行われ、その後、既上場ヘルスケアリートの資産運用会社やヘルスケア施設のオペレーターより、実際にヘルスケアリートやヘルスケア施設の運営を行う立場から見たヘルスケアリート活用のメリット・デメリット等についての説明が行われる、という流れで進められました。また、各講師による説明後には、十分な質疑応答の時間が設けられました。
(1)国の施策について
国土交通省からヘルスケア施設の証券化事例及びヘルスケアリートの普及促進に係る政府の取り組みについての紹介が行われました。取り組みの一つとして、ヘルスケアリートに対する施設の利用者、オペレーター及び投資家の有する懸念の解消や、資産運用会社が「不動産」と「運営」の両方を評価できる体制の整備の促進を図るための、「高齢者向け住宅等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン」の策定等が挙げられました。
(ガイドラインの詳細は国土交通省HP参照)
また、サービス付き高齢者向け住宅の供給促進のため、予算面(建設・改修費に対する補助金交付)、税制面(所得税・法人税等の軽減)等の支援措置を講じていることも紹介されました。
【サービス付き高齢者向け住宅の供給促進のための支援措置】(国土交通省説明資料より抜粋)



(2)ヘルスケアリート活用のメリット・デメリット等
続いて、既上場ヘルスケアリートの資産運用会社等より、ヘルスケアリート活用のメリットやデメリット等についての説明がありました。ヘルスケアリート活用のメリットとしては、
- 借入金の圧縮等による財務体質の健全化
- 不動産投資リスクの回避
- ブランドイメージの向上
等が挙げられました。逆に、ヘルスケアリート活用のデメリットとしては、
- 賃料発生による損益計算書上の利益の減少
- 無借金化による金融機関との関係の希薄化
- 改修工事の自由度の制約
等が挙げられ、ヘルスケアリートを活用することにより得られるメリットは大きいものの、必ずしも全てのヘルスケア施設に当てはまるわけではなく、各施設の個別事情を踏まえた上で、デメリットとの比較衡量により、ヘルスケアリートを活用するか否か判断することが重要であるとの話がありました。
また、具体的なヘルスケアリートの活用事例についても言及され、現状における主要な流動化(オペレーターがリートにヘルスケア施設を売却し、オペレーターは賃借人として継続して当該施設を利用。)のみならず、新規開発への活用等についても紹介がありました。具体的には、新規開発はリスクが高く、リート自身での開発は抑制的・回避的であるため、スポンサーが出資したSPCやオペレーターがヘルスケア施設を開発し、安定稼働後にリートに当該物件を売却するというスキーム等の説明がありました。
更に、ヘルスケアリートがヘルスケア施設を組み入れるか否かの検討の際には、その施設が耐震基準を満たしているか、オペレーターの事業規模や財務内容から長期安定的な施設運営が可能か等、様々な観点から検討を行うことで、リートの運営のみならず施設利用者や投資家の保護にまで十分な配慮を行っている旨の説明があり、参加者からは感嘆の声があがっていました。
(3)質疑応答
セミナーの最後に設けられた質疑応答では、ヘルスケアリートの基本的な仕組みに係る質問に留まらず、かなり具体的な質問がなされる等、ヘルスケア業界を発展させていくにはどうすればよいのかについて、主催者側・参加者の間で非常に活発な議論が行われました。
4おわりに
本セミナーは、各回とも主催者側が想定した人数を上回る申し込みを頂き、ヘルスケア施設のオペレーター、医療法人、デベロッパー、ハウスメーカー、コンサルティング会社等、様々な立場の方がヘルスケアリートに関心を持っていることがうかがえます。
また、セミナー終了後に実施したアンケートによると、「資産運用会社の社長やオペレーターの生の声が聞けて参考になった」「ヘルスケア政策に関する国の考えが直接聞けて有意義だった」といったコメントが寄せられており、主催者・参加者間の双方向での対話を重視した今回の試みが成功したように思います。また、アンケートでは「参考になった」という声が大半であったことも踏まえると、参加者にとって非常に満足度の高いセミナーとなったのではないでしょうか。
ヘルスケアリートは、例えるなら、まだ卵から孵化したばかりの雛鳥のようなものです。孔雀が羽を広げるが如くヘルスケアリートが発展していく一助となれるよう、東京証券取引所におきましては、関係省庁・団体と協力し、このようなセミナーを継続的に開催していこうと考えています。また、本サイトの物件紹介動画コーナーにおいて、今後、ヘルスケアリートについても紹介していく予定ですので、どうぞご期待ください。


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