ヘルスケアリート

第1回 金融庁・三村淳証券課長に聞く「ヘルスケアリート」後半 収益や分散効果を期待できることに加えて、 社会的価値や有益性が高い投資商品に

「ヘルスケアリート」に関する金融庁監督局証券課・三村淳課長インタビューの2回目。オペレーショナルアセットとしての特殊性を勘案しながら制度設計を進めており、環境整備はほぼ整ったという。一般のリートと異なる点も考慮して、分散投資の一環としてヘルスケアリートへの投資を検討していくことがポイントになりそうだ。

ヘルスケアリートが一般に広がるためには、
利用者保護に加えて投資家保護も重要な論点になります。

東証に上場するJリートであれば、個人投資家をはじめとした幅広い投資家から資金を集めることになるわけですから、投資家保護ということが重要になるのは言うまでもありません。我々金融庁としては、投資家保護といった部分はまさに主たる業務ですので、この点はしっかりやっていきたいと思っています。まず、これまでのリートが行ってきたような一般的な情報開示は当然のことながらやっていただきたいと思っていますが、これに加え、ヘルスケアリートの情報開示で特徴的な部分は、オペレーショナルアセット的な要素があるという点です。

三村淳氏フォト

金融庁監督局証券課
三村淳課長

ヘルスケア施設は不動産そのものの価値だけでなく、その不動産を使ってどのようなサービスを提供するのかという事業運営のノウハウが付加されることで価値も変わってきます。例えば、都心のオフィスビルであれば、ロケーションや建物の設備でほぼ価値が決まり、そこに入居するテナントが誰でどんな事業を実施するのかは、さほど不動産価値に影響を与えないとも考えられます。一方で、例えば地方の緑豊かな場所にある有料老人ホームの場合、不動産そのものの価値は高くないかもしれませんが、どのオペレータがどの高齢者を対象に、どのようなサービスを提供して、どう運営していくのか。これによって価値はかなり違ってくると考えられます。

ヘルスケアリートが投資対象とする施設には、こうした特殊性があるわけです。このため、投資家が投資判断をするにあたっては、実際に行われている事業や事業を行っているオペレータに関する追加的な情報が必要になるわけです。

利用者、オペレータ、投資家がそれぞれ持っている不安や課題を克服する対処法を考えると、時には互いに利害が一致しない場合も出てきます。我々金融庁が考えるべきは、これら三者のバランスを取りながら課題を克服しニーズに応えること。これが、実際にヘルスケアリートを普及させていくうえでの最も重要な論点になるだろうと考えています。

それらの課題に対して、
現状ではどのように対応しているのですか。

ヘルスケアリート関係者の課題とニーズの洗い出しや、その対処法については、一昨年あたりから国土交通省や厚生労働省といった関係省庁を含め、官民連携して取り組んでいます。昨年7月には、一般社団法人不動産証券化協会において「ヘルスケア施設供給促進のためのREITの活用に関する実務者検討委員会」を設置していただきました。この実務者検討委員会では、利用者やオペレータ、投資家(金融機関や機関投資家)、関係省庁、資産査定の専門家などが集まって、それぞれの立場から課題を洗い出し、解決に向けた対応策を検討してきましたが、2013年12月にその成果を「中間取りまとめ」として整理していただいたところです。

「中間取りまとめ」での結論を一言でいうと、「克服不能な課題はほとんどない」ということです。前述の情報提供に関する課題が一例として挙げられますが、投資家はオペレータの営業実態が知りたい。一方のオペレータはどこまで出さなければならないのか不安だという。この状況について、実務者委員会の議論では、投資家が欲しいデータは他のデータやインタビュー等でも代替可能であるなど、投資家・リート側は柔軟に対応できる、という話を全員で共有しました。利用者側も、リートが色々な情報を集めて出してくれれば、入居の際に参考にできるし、投資家が欲しいのは自分たちの個人情報ではなく入居者全体の傾向値であることがわかって安心した、という意見もありました。

ただ、この「中間取りまとめ」で全ての課題が解決したわけではなく、それぞれの立場の折り合いをつける工夫は今後もしていかなければなりません。工夫さえすれば課題は克服できるという検討委員会の結果を踏まえて、今年に入ってそれぞれの関係者が課題克服の工夫を具体的に考え始めています。

たとえば、投資家側では、適時開示に関する規定やガイドラインなどを東証が中心になって改定していただきました。一般社団法人投資信託協会では、リート運用会社の情報収集方法や利用者・オペレータの不安解消に向けた説明方法などの留意点をまとめ、規則及びガイドラインとして策定いただきました。オペレータに対しては、金融庁と東証、不動産証券化協会が連携して、正しい理解を促進するためのセミナーを展開しています。

このような取り組みの中で、それぞれの課題を実際に克服していくための具体的な“目線づくり”が相当進んでいると思っています。利用者やオペレータの方々の不安解消や課題克服の取組みは引き続き継続していかなければなりませんが、関係各位の努力もあって、ヘルスケアリートが現実にスタートするための環境整備はだいぶ整ったと言えます。既に立上げに向けて手を挙げている運用会社も複数あると聞いており、「2014年をヘルスケアリート元年にしたい」という関係者の思いは強いものがあります。

個人投資家に向けて、
投資にあたっての注目ポイントや注意点を。

三村淳氏フォト2

投資家に、資産形成のための有用な手段を提供するのがヘルスケアリートの目的だと考えています。不動産を投資対象にするリートは、株式や債券などと値動きが違います。多種多様な金融商品への分散が投資の基本とするならば、リートはそのポートフォリオの中で有効な商品の一つと言えるでしょう。なかでもヘルスケアリートはその性質上、一般のリートと特性が違っていると考えることができます。

一般のリートが投資するオフィスビルや商業施設からの収益は、多かれ少なかれ景気動向に左右されます。一方のヘルスケアリートは景気が良いから入居者が増える・減るといった連動性はあまりないと考えられます。同じ不動産投資でも投資対象となる施設の収益パターンが違っており、中長期の景気変動による収益性のボラティリティ(価格変動の度合い)が比較的少ないとも考えることができます。違った特性のアセットに投資するリートが登場することで、投資対象の多様性が享受でき、中長期の資産形成に役立つと考えられます。

投資する際に必要な開示情報は、内容もタイミングも正しく為されなければなりません。投資家への情報提供は、ヘルスケアリートの運用会社へ金融庁としてしっかりお願いしていきます。一方の投資家の皆さんも、提供される情報でしっかり判断したうえで投資していただきたいと思います。

前半の冒頭でも申し上げたように、ヘルスケア施設の質量両面での供給促進は全ての日本人が直面する課題です。ヘルスケアリートは、この課題について、できるだけ多くの皆さんからお金を預かって、効率的にクリアしていこうとするものです。単に投資収益を期待するだけではなく、社会的に価値がある投資という側面もあり、ヘルスケアリートは社会的な価値や有用性が高い政策のひとつだと認識しています。今後もヘルスケアリートの活用促進の後押しをしていければと思います。

 

≪[前半] 利用者・オペレータ・投資家の 不安解消と課題克服に全力で取り組む

 

 

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