ヘルスケアリート

第2回 金融庁・三村淳証券課長に聞く「ヘルスケアリート」前半 利用者・オペレータ・投資家の 不安解消と課題克服に全力で取り組む

有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などに特化して投資を行うリート(不動産投資信託)である「ヘルスケアリート」が今年、本格稼働しそうだ。高齢化社会を迎えた日本にとって、ヘルスケア施設の拡充に向けた資金需要は旺盛であり、そのためのリートを活用した資金供給は大いに期待される政策のひとつ。旗振り役となった金融庁監督局証券課の三村淳課長に、ヘルスケアリート立上げに向けたこれまでの背景と個人投資家への期待などを語っていただいた。2回シリーズで紹介する。

まず最初に、なぜいまヘルスケアリートなのか。
これまでの背景を教えてください。

なぜ今かと言うと、大きく分けて、「我が国における人口の高齢化」「アベノミクスにおける成長戦略」「個人の資産形成の促進」という3つの理由が挙げられます。

我が国の高齢化はいよいよピークを迎えつつあります。今後、高齢期を迎えた方々のヘルスケア施設(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など)の供給を質量両面でいかに促進していくか、あるいは充実させていくか。特に、我が国の財政には限界がある中で、どうやって民間資金によって対応していくか。この課題は、どんな職業の方、どこの地域の方であっても直面するものであり、すべての日本人にとって重要な課題になっています。

そのため、高齢化社会に対応するためのヘルスケア施設の拡充という、いわばオールジャパンの課題に対しては、政府全体として取り組んでいく必要がありますが、なぜ金融庁がここ1〜2年で特に注力して取り組んでいるのか。それが第2の理由である「アベノミクスにおける成長戦略」に関わってきます。“アベノミクスの3本の矢”のうち、1本目の財政政策と2本目の金融政策は昨年来、相当程度進んできていますが、今内外から注目を集めているのが3本目の成長戦略です。金融庁としてこの成長戦略に貢献するために最も大事な視点は、日本の個人金融資産が約1,600兆円ある中、これをどう有効に活用していくのか、という点にあります。

自国の成長戦略を考える場合、日本に限らずどの国も、まずは自らの国で持っている資源をどう有効活用するかを考えるかと思います。ご承知のように我が国はそれほど天然資源があるわけではなく、他方で高齢化が進み人口減少社会になってきています。そのような現状で、日本が持っている最も豊富でかつ有効な資源は「お金」そのものではないでしょうか。そのため、この個人金融資産という資源を有効活用していくのが非常に重要な視点になるわけです。

具体的には、1,600兆円という個人金融資産を成長性の高い分野に「成長資金」としていかに振り向けていけるか、ということです。このような観点で、政府は昨年来、成長戦略や経済対策といったものをまとめてきました 。また、財務省と金融庁が共同で進めている「金融・資本市場活性化有識者会合」が昨年12月と今年6月にまとめた提言にも、こうした視点が盛り込まれています。

介護やヘルスケア関連を成長分野と呼ぶのは多少語弊があるかもしれませんが、最も資金を必要とする(=資金ニーズの高い)分野であることは間違いありません。リートの仕組みはまさにそういった分野と資金を繫ぐものであり、ヘルスケアリートは成長戦略の一環として考えても非常に重要なわけです。我が国の持続的な経済成長にも資するものであり、アベノミクスの成長戦略を議論している今だからこそ、特に求められている取組みと言うことができるでしょう。

1 日本再興戦略-JAPAN is BACK-(平成25年6月14日閣議決定)や、好循環実現のための経済対策(平成25年12月5日閣議決定)において、ヘルスケアリートの活用や上場推進が掲げられている。

3つめの理由「個人の資産形成の促進」については
いかがですか。

1,600兆円という個人金融資産は比較的、高齢者が保有されており、働き盛りや若年層といわれる世代の方々に目を転じると、必ずしも豊富な資産を持っているという状況にもなっていないかと思います。そのため、こうした働き盛り、若年層といった方々は、これからある程度時間をかけて、資産を形成していかなければなりませんし、これは現役世代の方々に共通した問題意識だと思われます。

こうした課題も、ヘルスケア施設の拡充と同様、1人ひとりの国民生活を考えた場合に非常に重要な取組みになりますが、金融庁としては、個人の資産形成を促していくために、以前から進めている「貯蓄から投資へ」という流れをより一層加速していかなければならないと考えています。そのためには、多様な投資商品を用意することが必要となりますが、ヘルスケアリートはこれまで我が国になかった新しいタイプの不動産投資商品になり得ますし、これから資産形成をしていかなければならない方々にとっても、新しい選択肢を提供できるという点において大きな意味を持つと思います。

「貯蓄から投資へ」という流れは、確かにこれまでのデフレ環境下では進みづらい点がありました。デフレ下では、限りなくゼロに近い金利で銀行にお金を預けても、物価が下がることにより実質的にお金の価値は上がることになりますので、デフレ下の銀行預金も経済合理性のある投資行動と考えられます。ただし、アベノミクスの金融政策によってデフレからの出口が見えてきた昨今、日銀が目指す「2%のインフレ」が現実味を帯びていくのであれば、全ての資産を銀行預金としておくということにもならないでしょうし、今後は「貯蓄から投資へ」といった流れが本格的に求められていくのではないでしょうか。

ヘルスケアリートの拡大のために、
制度設計上の課題はどこにあるのでしょうか。

いくら我々行政当局が旗を振ったところで、関係者のご理解とご協力がなければ、実際にヘルスケアリートの活用・拡大といったことにはなりません。ここで重要なポイントになるのが、ヘルスケア施設側の関係者の理解をどうやって得て、不安を解消していくかということです。ここでいう施設側とは、高齢者の方々を中心とした入居される「利用者」と、施設を開発・運営する「オペレータ」と言われる方々の2通りです。

三村淳氏フォト2

利用者の方々の多くは、突然リートと言われても、とっつきにくいのではないでしょうか。「投資ファンド」のようなイメージで、自分達の利益だけを考えて物事を進めるような人たちが運営するのではないか。利用料(入居料)を一方的に値上げするのでは。コスト削減という名の下に期待していたサービスが受けられないかも。極端な例では、急に追い出されて施設を転用したり閉鎖したりする?――などなど、いろいろな不安を持たれるかもしれません。このような不安がある状態は、利用者のみならずオペレータ、リート、投資家など、関係者全てに悪い影響を与えかねませんので、しっかりと対処しなければならない課題だと認識しています。

こういった不安はオペレータの方々にも見られます。リートは、施設の保有者になり、オペレータの方々はいわばテナントとして家賃を払って施設を運営する立場になります。リートはオペレータの方々から見れば大家ということになりますが、急に高い家賃を求められるのではないか、急な退去を求められたりしないか、といった不安もあると聞いており、これらにもしっかり対処していかなければなりません。

また、他方で、リートは個人投資家をはじめとした幅広い投資家から集めた資金を、不動産に投資していくものです。そのため、その投資にあたっては色々な情報を得た上で、適切な評価を行い、投資を実行していくことになります。建物の面積や権利関係など、不動産としての基礎情報に加え、ヘルスケア施設の営業に関わる部分、入居率や利益率、スタッフの練熟度などの収益力の源泉になり得る情報も入手したいと考えるでしょう。しかし、オペレータ側から見ると、これは自社の営業上の秘密やデリケートな情報です。こうした部分については、自社の営業が外に漏れるのではといった不安も考えられます。また、出せるものなら出したいが、そもそもきちんとした情報やデータを整備していない、という場合も考えられます。

今申し上げたような利用者やオペレータの不安と課題をクリアしないと、いかにヘルスケアリートの商品性がよいものであっても、活用は進んでいかないでしょう。そのためには、リート側をはじめとした金融サイドから様々な支援や周知・啓蒙といったことをやっていく必要があると思います。また、投資商品である以上、投資家保護の観点も非常に重要になります。

後半では、投資家保護を含めた課題克服の現状と今後の展望を紹介します。

 

≫[後半] 収益や分散効果を期待できることに加えて、社会的価値や有益性が高い投資商品に

 

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