専門家インタビュー

■第44回
SMBC日興証券アナリスト 鳥井裕史氏に聞く

2023年のJ-REIT市場振り返りと2024年の見通し

SMBC日興証券株式会社
株式調査部 シニアアナリスト 鳥井裕史 氏
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員
一般社団法人 不動産証券化協会認定マスター

 

「2023年のJ-REIT市場パフォーマンス概要及びバリュエーションについて」」

2023年のJ-REIT市場パフォーマンス

鳥井裕史氏フォト

鳥井裕史氏

2023年12月末の東証REIT指数は1,806.96ポイントとなり、2022年12月末(1,894.06)との比較で4.6%下落、配当込みのトータルリターンでは0.5%下落した。2023年12月末時点のJ-REIT市場全体の時価総額は15.4兆円となり、2022年12月末時点の15.8兆円の比較で2.7%減少した。年を通じて金利上昇リスクが意識され、軟調なパフォーマンスとなった。

2023年の東証REIT用途別指数を見ると、オフィス指数が1.9%下落、住宅指数が3.9%下落、商業・物流等指数が7.2%下落、物流フォーカス指数が9.6%下落。用途別では物流フォーカス指数が2022年に続き軟調であった。なお、商業・物流等指数には商業施設型、物流施設型の他、ホテル型も含められている。用途別指数だけではタイプ別のパフォーマンス特徴を正確に把握することが難しい場合がある。そこで、弊社では各タイプの主要2銘柄の単純パフォーマンス比較を行っている。それによると、2023年の相対パフォーマンスは一部ホテル型と大手オフィス型が良いパフォーマンスとなり、住宅型も底堅かった。一方、商業施設型及び物流施設型が軟調であった。

2023年のJ-REIT市場全体での一口当たり分配金(DPU)は前年比+1.3%と微増で着地する見込み(一部弊社想定含む、2023年上期及び下期の平均値)。ホテル収益の急速な改善や物件入替による売却益計上、一部内部留保の取崩し等によりDPUをやや増加させることとなった。


 

■図表1:2023年の東証REIT指数、TOPIX、東証不動産業指数の推移(2022年12月末=100)
図表1:2023年の東証REIT指数、TOPIX、東証不動産業指数の推移(2022年12月末=100)

 

■図表2:2020年以降のJ-REIT各タイプ主要銘柄のパフォーマンス(2019年12月末=100)
図表2:2020年以降のJ-REIT各タイプ主要銘柄のパフォーマンス(2019年12月末=100)

 

「J-REIT市場分配金利回り及び長期金利との差の推移」

2023年12月末時点のJ-REIT市場全体における平均弊社予想分配金利回りが4.3%、長期金利に対する分配金利回りスプレッドは3.7%となった。2022年12月末時点の同分配金利回りは4.2%、同スプレッドは3.7%であったが、同期間の投資口価格が下落した(東証REIT指数:-4.6%)こともあり、分配金利回りは18bps上昇した。一方、同期間で長期金利が20bps上昇したこともあり、分配金利回りスプレッドは2bps低下にとどまった。なお、新型コロナ問題が発生する以前である2019年12月末の分配金利回りは3.5%、分配金利回りスプレッドも3.5%であった。

2022年後半以降、国内でも金利上昇懸念が高まる一方、日銀によるイールドカーブコントロール(YCC)により現状では10年国債利回りが0.5%までの範囲内でコントロールされていたため、本来のリスクフリーレートとして適正であるのかを疑問視されていたことは理解できよう。

実際のデータを見ると、2022年8月以降、J-REITの分配金利回りと10年国債利回りとの連動性は以前に比較して薄れているように思われる。10年国債利回りと10年スワップレートは2022年8月頃まではさほど差は無かったものの、それ以降10年スワップレートは上昇傾向となり、2023年1月上旬には10年スワップレートと10年国債利回りの差が50bps程度にまで拡大した。10年スワップレートは将来の10年国債利回りの動きを先取りしているように筆者は感じている。2022年後半から2023年3月上旬までのJ-REITの分配金利回りは10年スワップレートに概ね連動していた。

この点を勘案すると、J-REIT市場は実際の10年国債利回りを基準として動いていたわけではなく、同利回りが将来どのような水準になるのかを想定されながら動いていたと考えられる。一方、2023年7月や10月に日銀がYCCの柔軟化を発表したことに伴い、今後は実際の長期金利の動きにある程度連動することが想定される。ただし、J-REIT市場は金利に対する様々な思惑に影響を受けることは今後も想定される。引き続き長期金利だけではなく、10年スワップレートの動きにも注目しながらJ-REITの適正な分配金利回りや東証REIT指数を見ていくこととしたい。

なお、J-REIT市場及びそれを取り巻く外部環境が安定していた2013~15年での同スプレッドは3.0~3.5%で推移していた。クレジット市場が継続的に安定推移し、かつ安定的な分配金の確保が確認されれば、J-REITの分配金利回りスプレッドは同レンジで推移すると考えられる。2023年12月末時点ではこのレンジ内の上限を若干超えた水準にある。そのため、J-REITの分配金成長期待が持たれることや金利・クレジット市場環境に落ち着きが見られれば、同スプレッドの低下余地はあると見ることができる。

■図表3:J-REIT市場全体の分配金利回りと長期金利に対する分配金利回りスプレッドの推移
図表3:J-REIT市場全体の分配金利回りと長期金利に対する分配金利回りスプレッドの推移

 

■図表4:2018年以降のJ-REIT市場全体の分配金利回りと分配金利回りスプレッドの推移
図表4:2018年以降のJ-REIT市場全体の分配金利回りと分配金利回りスプレッドの推移

 

■図表5:2018年以降の長期金利及び10年スワップレートの推移
図表5:2018年以降の長期金利及び10年スワップレートの推移

 

「資産価値から見たJ-REIT」

2023年12月末時点におけるJ-REIT市場全体における平均NAV倍率(鑑定価格ベース)は0.91倍である。他方、2019年12月末までの過去10年間の平均値は1.12倍であった。仮に1.12倍を適正値とした場合、2023年12月末時点においてJ-REIT市場全体の純資産価値は18%(1.12-0.91)毀損することが織り込まれていると言える。

J-REIT市場全体の自己資本比率(純資産/総資産)(2023年10月末時点)は50%であることからレバレッジ効果により不動産価格が9%下落すれば純資産価値は18%減少することになる。また、NOIが一定でキャップレートが0.3~0.4ppt上昇すれば不動産価格は9%下落することとなる。つまり、現状のJ-REITのバリュエーションはキャップレートが0.3~0.4ppt上昇することを織り込んだ状況と言えよう。

不動産のキャップレートは理論的には「リスクフリーレート+リスクプレミアム-期待成長率」で表される。2023年初に比べて長期金利が0.3~0.4%上昇したことを考えれば、J-REITの投資口価格は長期金利上昇が素直に反映されたと言え、J-REITの投資口価格は理屈通り動いていたのではないかと筆者は考える。

一方、実際の取引事例における不動産のキャップレートは低下を続けており、不動産価格は上昇もしくは高止まりを続けている。「不動産価格が上昇・高止まり」を前提とすれば、J-REITはNAV倍率から判断すると「割安」と言えるだろう。しかし、筆者は「J-REITは理論通りのバリュエーションに低下した」とする一方で、不動産価格が「理屈通りに下落していない」と考えている。

長期金利の上昇を通じてJ-REITの資本コスト(インプライド・キャップレート)が上昇した一方、不動産のキャップレートは上昇していない。この状況ではJ-REITは外部成長を実現することが困難であり続ける。もしキャップレートが上昇していれば、資本コストに見合う物件取得が可能となり、J-REITは外部成長により一口当たり収益性を向上させることができただろう。このように考えると、金利や資本コストが上昇する中でキャップレートが低位にとどまり続けることはJ-REITにとって好ましいものではないし、不動産市場の価格形成面での健全性にも良いものではないと考える。

■図表6:J-REIT市場全体のNAV倍率の推移(鑑定評価額ベース)
図表6:J-REIT市場全体のNAV倍率の推移(鑑定評価額ベース)

 

■図表7:J-REITの平均取得キャップレート(全用途平均)及びインプライド・キャップレートの推移(暦年ベース)
図表7:J-REITの平均取得キャップレート(全用途平均)及びインプライド・キャップレートの推移(暦年ベース)

 

「2023年におけるJ-REIT市場を取り巻く投資家動向について」

2023年のJ-REIT市場を取り巻く需給構造を見ると、以下の注目点が挙げられる。

  1. 個人投資家からのJ-REIT特化型投信への資金流入超過は2023年前半まで続いていた。インカムゲインが獲得できる資産かつインフレ対応資産として注目が集まったことが背景にあろう。ただし、2023年後半同資金流入超過額は鈍化し、9~12月は流出超過となった。金利上昇リスクや不透明な資本市場環境を意識されたこと、堅調な株式市場への資金シフトがあったものと推察される。
  2. 地域金融機関は押し目買い姿勢を継続で相場上昇時は利益確定売りも柔軟に実施する姿勢である。REIT相場の急落もしくは低迷時はREIT-ETFへの資金流入超過額は高水準となった。具体的には東証REIT指数が1,800ポイント前後に下落した局面では押し目買いが鮮明であった。一方、同指数が1,900ポイント台もしくは2,000ポイント近辺にまで上昇した局面では同資金流入超過額は少額にとどまるか流出超過となった。
  3. 海外投資家は金利やクレジット市場動向に敏感であった。2023年前半までは金利上昇リスクが懸念される局面では売り越し姿勢となり、逆に2023年7月に同懸念が和らいだ局面では買い越し姿勢であった。2023年後半はグローバルREITファンドを中心に買い越し基調であった。他国に比べると底堅いファンダメンタルズや金利上昇が軽微であったこと等が背景にあったと言えよう。

<投信・個人の売買動向>

投信協会や弊社収益データに基づくと、主に個人投資家向けの公募型J-REIT特化型投信(除くREIT-ETF)への資金流入超過額は2022年通年で約4,300億円に上った。2023年前半もその傾向は続き、同年1~6月の資金流入超過額は約820億円となった。しかしながら、2023年後半は鈍化傾向となり、2023年7~12月は約770億円の流出超過となった。金利上昇リスクや不透明な資本市場環境を意識されたこと、堅調な株式市場への資金シフトがあったものと推察される。

<銀行(含む証券自己)の売買動向>

地方銀行をはじめとした地域金融機関はREIT-ETFを通じてJ-REITに投資する傾向がある。東証が公表している「ETF/ETN Factsheet 2023」によると、2022年7月末時点での地銀をはじめとした国内金融機関におけるREIT-ETFの保有シェアは9割を超える。そのため、同投資主体の投資状況については東証が公表する投資部門別売買状況の「銀行」部分のみならず、REIT-ETFへの資金流入超過額も合わせて分析する方がよいだろう。

2022年のREIT-ETFへの資金流入超過額は1,800億円弱、2023年は2,350億円となり、地域金融機関のJ-REITへの投資ニーズはあったと言える。ただし、2022年以降の地域金融機関は例年にも増して「相場下落時の押し目買い、相場上昇時の利益確定売り」を柔軟に実施したと筆者は考える。REIT相場が急落もしくは低迷時の同資金流入超過額は高水準となった一方、相場回復時には資金流入超過額は少額にとどまり、もしくは利益確定売りのために資金流出超過となった。今後も金利環境に応じて同様の投資スタンスが続くものと考える。

<外国人の売買動向>

東証によると、外国人は2023年1~6月に750億円強売り越した。日銀による政策修正に対する思惑から国内長期金利の上昇リスクを嫌気したことや世界的なクレジット市場環境の悪化リスクを意識されたこと等が挙げられる。一方、同年7月はこれらリスクが薄れたこともあり単月で311億円買い越しとなった。その後8~12月も380億円の買い越しとなった。日銀によるYCC修正に対する警戒感から金利上昇リスクはあったものの、他国に比べて良好なファンダメンタルズや金利上昇が相対的には軽微であったことが背景にあると考えられる。

2024年前半においても地域金融機関は押し目買いスタンスを継続するだろう。金利環境が落ち着き、かつファンダメンタルズに改善が確認されれば個人投資家や海外投資家からの資金流入に期待したい。他方、投資口価格が上昇し、東証REIT指数が2,000ポイント近辺まで上昇してくれば2024年中頃から各REITは外部成長を模索する動き、すなわちエクイティファイナンスが活発に実施される可能性があろう。2024年後半は需給面からの売り圧力をこなした上で底堅く推移できるかは外部成長による分配金上乗せ期待が勝るか、希薄化による成長鈍化懸念になるか次第と言えよう。

 

■図表8:J-REIT特化型投信への純資金流出入状況(単位:億円)
図表8:J-REIT特化型投信への純資金流出入状況(単位:億円)

 

■図表9:投資部門別売買動向(単位:億円)
図表9:投資部門別売買動向(単位:億円)

 

「J-REIT市場におけるデット調達状況」

J-REIT市場における資金繰りは金利上昇に伴う金融費用変動リスクには留意しつつも、特段問題ないと考える。2023年12月末時点のJ-REIT市場全体の有利子負債残高は10.3兆円と2022年12月末(9.9兆円)及び2021年12月末(9.5兆円)に比較してそれぞれ0.4兆円(+4%)、0.7兆円(+7%)増加。全体としては金融機関によるJ-REITに対する貸出姿勢に特に変化は見られず、残高は増加傾向を維持している。

2023年12月末時点におけるJ-REIT市場全体の有利子負債調達コストは0.61%であり、2022年12月末に比較して3bps高い水準にある。若干上昇に転じているものの、その影響は軽微と言えよう。平均残存年数は2023年12月末時点では4.0年であり、足元では若干短期化方向である。スワップレートを含めて長めの年限でのベースレートが以前に比較すると上昇しているものの、ローンスプレッドの上昇はさほど感じていない。今後借換えの際は一部年限の短期化や変動金利の活用により有利子負債全体の調達コスト上昇を抑制する工夫にも注目したい。

金融費用増加リスクに関して、筆者は各REITの柔軟な施策により同リスクを過度に懸念しているわけではないものの、将来基準金利上昇やクレジット市場の混乱によりJ-REITの資金繰り環境に変化が生じるリスクもあることから、同コスト上昇に伴う分配金下落リスクの度合いについては認識しておく必要があろう。仮にJ-REIT市場全体の調達金利が10bp上昇すれば分配金は1.6%減少すると弊社では試算しており、30bp上昇すれば5%、50bp上昇すれば8%の分配金減少が想定される。

 

■図表10:J-REIT市場全体の有利子負債コストと残存年数の推移
■図表10:J-REIT市場全体の有利子負債コストと残存年数の推移

 

「J-REIT市場におけるエクイティ調達状況」

2023年のJ-REIT市場におけるエクイティファイナンス実績は払込ベースで2,868億円。2022年通年実績の2,824億円を2%上回ったものの、2017~21年の5年平均(5,821億円)に対しては-51%と低水準にとどまった。

2023年のJ-REIT市場全体におけるNAV倍率(鑑定価格ベース)は終始1倍を下回った状態が続いたことからエクイティファイナンスを実施するには厳しい環境であった。例年1~3月は物件取得タイミングが集中することから増資額も他の四半期に比べると大きくなる傾向がある。しかしながら、不透明な資本市場環境を理解する銘柄はデットでの物件取得や物件入替にとどめる動きが大勢であり、同四半期でのエクイティファイナンス額は399億円にとどまった(払込日ベース)。一方、2023年4~9月に関しては金利やクレジット市場環境が若干持ち直したこともあり、物流施設型を中心としつつ、ホテル型や住宅型もエクイティファイナンスと物件取得を実行した。10~12月は金利上昇懸念で再び不透明な市場環境となったことからJ-REITによるエクイティファイナンスは手控えられたものの、NAVディスカウント幅の大きい案件が複数散見された。

各案件ともインプライド・キャップレートは意識しながら一口当たり収益性の維持には配慮したものであったものの、一部の銘柄ではインプライド・キャップレートを下回る水準での物件取得と増資を実施し、投資主価値を毀損する案件も見受けられた。

円滑な増資ができる投資口価格水準には至っていないことを背景に、2024年前半は2023年と同様にJ-REITによるエクイティファイナンスは低水準にとどまるのではないかと考える。他方、同年前半に金利上昇懸念が一段落してファンダメンタルズ改善も進むことにより投資口価格が回復すれば、2022~23年が低調であった反動もあり、同年半ばから後半にかけて案件数は増加しよう。その際はエクイティファイナンスと物件取得が明確に「増配期待」につながることを期待したい。

 

■図表11:J-REITによるエクイティファイナンス実績(2023年12月末時点、払込ベース、OA分含む))
図表11:J-REITによるエクイティファイナンス実績(2023年12月末時点、払込ベース、OA分含む))

 

「J-REITによる物件売買状況」

2023年1~12月のJ-REITによる物件取得実績は249物件で1兆765億円(優先出資証券等は除く、追加取得は含む)となり、2022年通年実績の8,652億円を24%上回ったものの、2014~21年における年間平均取得額である1兆5517億円を31%下回る水準であった。金利上昇リスク等が意識された不透明なJ-REIT市場環境の下で円滑に増資を実施することは難しく、2023年1~3月のエクイティファイナンスは手控えられた。4~9月は過度な金利上昇・クレジット市場の悪化懸念が薄らぎ、1~3月に比べると物流施設型やホテル型を中心に増資は増加したものの、10~12月は再び金利上昇リスクが意識された。そのため、例年に比べてJ-REITを取り巻く資金調達環境は厳しく、資産規模拡大よりも物件入替に重きを置く状況であった。

2022年は物流施設取得シェア(取得価格ベース、以下同様)が38%とタイプ別で最大であったものの、2023年はオフィスの取得シェアが全体の32%(2022年:30%)を占め、トップであった。オフィスは大規模な物件入替が実施されたことが背景にあろう。物流施設に関しては2022年の38%に比較すると2023年は22%とシェアは低下したものの、2023年4~8月に各物流施設型REITがエクイティファイナンスを実施して大型物件の取得を実行する事例が続いたこともあり、相応の取得規模となった。次いで、ホテルが18%(同2%)に急浮上。2023年7~9月に各ホテル型REITは増資を実施して物件取得を積極化したことや総合型REITのホテル投資も見られた。住宅は14%(同18%)、商業施設が8%(同6%)と続いた。

オフィス型REITはポートフォリオの質を高めることや売却益確保を目的として物件入替への意欲は継続。物流施設に関しては国内外デベロッパーが積極的に物流施設開発を行い、これらデベロッパーであるスポンサーよりREITが物流施設を取得する動きは資本市場次第ではあるが今後も継続されよう。住宅は現状ペースを維持するものと考える。商業施設型に関しては個別要因次第で増減するだろう。ホテルは2022年まで取得環境は低迷した。新規で資金調達可能な環境では無かったことから物件取得を実行できるような状況に無かったと言えよう。ただし、2023年からはホテル市況の改善が進み、資金調達環境も改善したことから、REITによるホテルの取得が増加してきた。今後もその傾向は続こう。

 

■図表12:J-REITによる物件取得実績(暦年ベース)
図表12:J-REITによる物件取得実績(暦年ベース)

 

「2024年のJ-REIT市場展望」

2023年までは厳しいJ-REIT市場環境であったものの、2024年前半のJ-REIT市場は底堅く推移するのではないかと考える。日銀の金融政策や長期金利動向には引き続き目を配る必要があるものの、同金利上昇リスクは2023年までに相応に織り込んだものと考える。筆者の試算によると、2024~26年の今後3年間での平均分配金成長率を年率+2.5%とした場合、東証REIT指数1,800ポイント台というのは長期金利が1.0~1.2%にまで上昇することを織り込んだ数値と見ている。もしくは現状の1,800ポイント台前半というのは今後の分配金成長がゼロで長期金利が0.8%に上昇した場合でも説明のつく数値となる。

ファンダメンタルズに目を向けるとオフィス型REITの空室率は改善に向かい、住宅型や物流施設型は賃料増額を続け、ホテル型は宿泊単価上昇の恩恵を受ける。これらにより、2024年のJ-REIT市場では増配を期待する展開になると期待。長期金利が0.8%までの上昇にとどまれば、東証REIT指数は2024年半ば頃までに2,000ポイントを回復することも視野に入ると期待している。

他方、同指数が2,000ポイント前後にまで回復すると、J-REITによるエクイティファイナンスが増加することにも意識したい。需給面での悪化リスクから一時的に上値が重くなることもあろう。また、増資と物件取得が一口当たり収益性の向上につながるかでその先の外部成長期待で上値を試すことになるか、同成長期待鈍化で上値が重いままなのかを判断する局面が来よう。2024年後半は外部成長期待の有無もテーマになり得よう。

 

■図表13:筆者が考える妥当な東証REIT指数と長期金利の関係
図表13:筆者が考える妥当な東証REIT指数と長期金利の関係

 

 

鳥井裕史氏プロフィール
大和総研、大和証券SMBCを経て2010年より現職。15年超にわたりJ-REIT市場の調査・分析に従事。Institutional Investor誌「All-Japan Research Team」REIT部門で2012~23年で12年連続1位。日経ヴェリタス誌「アナリストランキング」REIT部門で2016~2023年で8年連続1位。一般社団法人不動産証券化協会認定マスター。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員。

 

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