■第27回
SMBC日興証券のシニアアナリスト、鳥井裕史氏に聞く
東証REIT指数は2015年初に1990ポイントを超えたあと、現在は1700〜1800ポイントの横ばい状態が続いている。ファンダメンタルズや需給の現状と今後の見通しはどうなのか、SMBC日興証券の鳥井裕史氏に話を聞いた。
SMBC日興証券株式会社
株式調査部シニアアナリスト
鳥井裕史氏
鳥井2014年は長期金利が低下して、J-REITによる物件取得が分配金の向上につながりました。低金利下での増配基調でかなり好調といえました。今年に入って長期金利が0.2%から0.4%まで上昇、分配金利回りも上昇したことが、現在、東証REIT指数について横ばい状態が続いている理由のひとつです。
2014年までは、高利回りの物件を取得したことがポートフォリオ全体の収益性向上につながり、物件取得は分配金上昇のポジティブ要因だったといえます。一方の2015年は不動産価格が上昇したため、高値づかみもしくは低利回りでの物件取得になっています。そのため、物件取得が分配金の上昇につながっていないわけです。一般に「外部成長」と呼ばれる物件取得力が収益性にポジティブに働いていない。これが東証REIT指数の上値が重い展開になっている要因です。
鳥井物件取得力は依然として強いです。今年7月末までに29銘柄で約5,800億円のファイナンス(増資)実績があります。これは昨年を上回るペースです。相当な勢いということができます。
J-REITは一般的に2倍のレバレッジで運用しているので、増資額のおおよそ2倍が物件取得額といえます。2014年の物件取得実績は1兆5,753億円ですが、今年は7月末時点ですでに1兆1,575億円。買い急いでいる感があるほどの勢いで買っています。
J-REITが実際に購入した物件のキャップレート(利回り)を見てみると、東京23区の住宅では、2年前は5.5%くらいだったのが今年に入って4.5%くらい。つまり、2年で1%(100ベーシス)低下しています。これを価格に換算すると+20%で、不動産価格は2年で20%上がっていることになります。不動産価格の上昇は現在保有している不動産の純資産価値にはプラスになりますが、新規で購入する場合には高値かつ低い利回りということになり、収益性低下につながります。
鳥井J-REITによる物件取得や資金調達意欲は強く、今しばらく需給環境はあまりよくない可能性がありますが、10月以降は期待がもてそうです。たとえば、オフィス賃料の上昇はポジティブ要因になるでしょう。とくに都心のオフィス賃料は着実に上がってきており、いま現在は賃料上昇期待を織り込む局面に入ってきていると考えられます。
J-REITは市場の賃料動向に遅行する傾向があります。各オフィスREITを見ていると、今年に入ってから賃料を上げ始めつつあります。これらのREITの決算は6か月ごとなので、賃料上昇が分配金に反映されるのは早くて今年下期。投資口価格はここから賃料上昇期待を織り込みにいく展開で、そこから分配金スプレッドが縮小して投資口価格が上がっていくというシナリオです。
鳥井年末に向かって2000ポイントに向かうのは難しい話ではないでしょう。
J-REITでは一般に、オフィスの賃料が10%上がると利回りで40ベーシスの低下につながることがわかっています。また、ポートフォリオは現在賃料上昇中のオフィスと、住宅や商業施設などの賃料が上がりにくい資産が半分ずつになっています。オフィス賃料が10%上がるとポートフォリオ全体では5%増。J-REITの賃料収入が1%動くと、分配金は2.5%動く収益構造になっています。だから、賃料収入が5%上がると分配金は12.5%上がる。これを利回りに換算するとおおよそ40ベーシスになります。
この期待を入れ込めば、現在のスプレッド2.8〜2.9%から40ベーシス下がれば2.4-2.5%になり、長期金利が0.5%だと分配金利回りで約3%、指数だと2000ポイントという計算になるわけです。
2015年初も1990ポイントを超えたときがありましたが、当時とは背景が違います。当時はスプレッドは変わってなくて、単純に長期金利が40ベーシス下がった結果、分配金利回りも一緒に40ベーシス下がって、指数が2000ポイント近くまで上がりました。今後は長期金利が0.2%まで下がることは考えづらい。それよりも、成長期待を織り込んで分配金利回りが40ベーシス下がった結果、指数が上昇すると見ています。
■2013年後半からのJ-REITの分配金利回りスプレッドと都心5区募集賃料
鳥井円建て資産で年換算3.5%の配当(分配金)利回りが期待できる金融商品はそうあるものではありません。とくに今年後半は不動産の賃料上昇が見込まれ、増配も期待できそうです。東証REIT指数はいまのこところ軟調に推移していますが、投資妙味は依然として強いと思います。
2001年9月のJ-REIT市場創設時を100としてパフォーマンス推移を見ると、2015年6月末まで350(配当込み)。TOPIX(同)が200で分配金なしのリートと同じ程度ですから、投資家がリターンを考える場合に分配金の意味はとても大きい。
J-REITの値動きはファンダメンタルズと需給で判断できますが、それに加えて投資家層の割合がほぼ固まっているという特徴も影響します。おおよそ投信30%強+地銀30%弱+外国人(グローバルREIT)25%+個人10%ぐらいでしょうか。J-REITの資金の流れと投信・地銀の投資動向、外国人の考えを把握できれば、見通しは比較的立ちやすい市場なのです。
個人投資家がJ-REIT市場を見たい場合も同様です。自分で把握できなくても専門アナリストのレポートを見れば、半期〜1年程度の見通しは立つでしょう。専門家でもわからないのは長期金利だけ。だから、金利政策には相当敏感に反応する市場といえますね。
■J-REIT及び国内株式のパフォーマンス推移(2001/9/10=100)
鳥井株式が非常に強いマーケットのときは弱いといわれています。J-REITとTOPIXの年毎パフォーマンス推移と見ると、それがはっきりわかります。一方で、株主還元が市場のテーマになったときにREITは強い。REITは株式会社と異なり、利益はほぼ100%、投資家に還元しなくてはならない仕組みだからです。また、J-REITが強い経済環境として、最近の例では金融緩和期を挙げることができるでしょう。長期金利が大きく下がるときは好調。2012年と2014年がその典型です。
誤解されやすいですが、不動産市場が活況じゃないときもJ-REITにポジティブに働くことがあります。サブプライムローン問題の前、2007〜2008年あたりは賃料がぐっと上がっていた時期でしたが、NOI(不動産から得られるキャッシュ・フロー)の利回りは低下していました。賃料上昇で物件を高値づかみをしてしまい、ポートフォリオ全体の利回り向上に貢献できなかったのです。
一方で2010〜2012年は賃料がとても下がっていた時期。しかし、NOIは下がっていません。安い物件(=高利回り物件)を買っていたので、結果としてポートフォリオの収益性を維持できていたと思われます。賃料低下は確かにマイナス要因になり得ますが、同時に高い利回りの安い物件を仕込むことができるので、その後の収益性を維持することは可能です。不動産市場が悪いからといって、J-REITのパフォーマンスが期待できないということはありません。
■J-REIT及び国内株式の年別パフォーマンス(配当込み)
■J-REIT市場全体のNOI利回りの推移
鳥井現状は、J-REIT収益の源泉が「物件取得力」(外部成長)から「オフィスなどの賃料上昇」(内部成長)への転換点にあります。これまでと同じ視点で考えてはいけません。まずは、この点を理解していただくことがとても重要になります。具体的には、物件取得を止めて賃料アップに注力しているオフィスREITに期待できます。日本プライムリアリティ(8955)が代表的な銘柄です。
シンプルに考えてホテルREITもポジティブでしょう。室料がそのまま売上になって賃料に反映されます。ジャパン・ホテル・リート(8985)やインヴィンシブル(8963)などは宿泊売上が10%上がると分配金が15%上がります。ボラティリティは比較的高いのですが、現在のような業界全体としてホテル事業が好調な状況ならとても強いですね。実際に今年に入ってから宿泊単価が20%上がっています。
経営戦略を「物件取得力」から「賃料上昇」へ舵を切っているかどうかは、決算説明会資料やアナリストレポートに書いてあります。個別銘柄を調べるのは手間に感じるかもしれませんが、東証に上場しているJ-REITは全部で53銘柄(2015年7月末現在)。株式や投信に比べると非常に少ないので、しっかり見ることができれば銘柄選択はそう難しくないと思います。
掲載日:2015年8月20日
鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト
大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券)において
年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、
2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。
InstitutionalInvestor誌の「All-JapanResearchTeam」REIT部門で2012年〜2015年に1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター
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