■第18回
2013年の国内REIT市場は堅調に推移しました。年初の東証REIT指数は1,141ポイント。9月にかけて1,500ポイントに達した後、年末にかけてやや調整はあったものの、それでも1,450ポイント前後を維持しました。いよいよスタートする2014年。今後の動向について、SMBC日興証券シニアアナリストの鳥井裕史氏に伺いました。
SMBC日興証券株式調査部
シニアアナリスト鳥井裕史氏
鳥井2013年のJ-REIT市場は、とても良い投資環境に恵まれました。東証REIT指数は、1年間で27%程度上昇したわけですが、これは米国やシンガポールなど、他の国のREIT市場に比べても高いパフォーマンスを上げています。新規上場も6銘柄あり、公募増資も活発に行われました。これによって、J-REIT市場の時価総額が増加し、物件取得が活発化することを通じて、結果的に不動産市況の好調につながりました。
2014年のJ-REIT市場は、前年に引き続き堅調に推移すると考えています。
東証REIT指数は足元1,450ポイント前後で推移していますが、3月にかけて1,550ポイントを、2014年末には1,800ポイントを目指す展開になるでしょう。
鳥井まず、オフィスの空室率が低下していること。これは2004~2005年の市場環境に類似しているのですが、当時は長期金利に対してプラス2.5%の配当利回りで推移していました。現在の長期金利が1%程度ですから、これに2.5%を加えると、配当利回りは3.5%になります。もし、配当利回りが3.5%まで低下するとしたら、東証REIT指数は1,550ポイントまで上昇することになります。
特に、2014年の春先にかけて金融緩和期待が高まると、長期金利のスプレッドが同じでも、長期金利の低下によって、想定される配当利回りの水準が低下します。その分だけ、東証REIT指数は上昇しやすい環境になりますから、いよいよ1,550ポイントは確実視されるようになるでしょう。
過去を振り返ると、2012年の1~3月期は、バレンタインデーに日銀が金融緩和を発表し、東証REIT指数が上昇しました。2013年の春先は言うまでもなく、黒田バズーカに向けて金融緩和期待が高まったお陰で、東証REIT指数は1,100ポイント台から一気に1,700ポイントまで上昇しました。もし、2014年の1~3月期に追加金融緩和期待が高まれば、東証REIT指数は1,550ポイントを超えて一気に1,800ポイントにまで上昇する可能性もあります。
■図表:東証REIT指数(2013年6月28日~2013年12月27日)
鳥井ここから先は、オフィスの賃料上昇が大きなテーマになるでしょう。オフィスの空室率が低下し、景気の好転とともにオフィス需要が高まれば、徐々に賃料上昇期待が高まってきます。
仮に賃料が10%上昇すると、REITはおおむね2倍のレバレッジをかけて運用していますから、配当利回りが20%上昇する計算になります。現在の配当利回りが4%だとすると、4.8%程度まで上昇するわけですが、前述したように配当利回りが長期金利にプラス2.5%のスプレッドを維持するとなると、最終的に配当利回りは4.8%から3.5%まで低下することになります。
利回りが低下すれば、その分だけ価格は上昇します。つまり、配当利回りの低下分を加味して東証REIT指数を計算すると、1,800ポイントが想定されるのです。
鳥井すでに500万口座が開設されたと聞いていますが、このうち4割に相当する200万口座が本格的に稼働して、100万円ずつ資金が入ったとすると、合計金額は2兆円。この10%がもしJ-REIT市場に流れ込んだとすると、その金額は2,000億円になります。これがJ-REIT市場に与えるインパクトは、かなり大きなものになるでしょう。実際、J-REIT特化型投資信託を通じて、2013年2~3月にかけて毎月1,000億円から1,200億円の資金が流入しただけで、東証REIT指数は1,200ポイント前後から1,700ポイントまで上昇しました。この事実から考えても、2,000億円の資金流入が及ぼすインパクトの強さは、想像できると思います。NISAに対する期待は非常に大きいものがあります。
鳥井今年は多くのJ-REITが投資口分割を行いました。たとえば2013年12月は、日本ビルファンド投資法人、ジャパンリアルエステイト投資法人、ジャパンエクセレント投資法人が投資口分割を発表しました。いずれも、この投資口分割によって最低投資金額が100万円を下回るので、NISA口座を通じて投資しやすくなります。
1単元あたりの投資口数が1口で、その額が100万円前後の銘柄だと、利益確定する場合、NISA口座を通じて保有している1銘柄を売却したら、あとは何も残らなくなってしまいます。でも、それが2分割され、1口あたりの投資金額が50万円になれば、100万円で2口購入できますから、利益を確定させるにしても、1口だけ売って利益を確定させた後、残りの1口は保有し続けることも可能になります。
今のところ個人によるJ-REITへの投資は、J-REIT特化型投資信託が中心ですが、もし20万円から30万円で個別REITに投資できれば、個人によるJ-REITへの直接投資が増えるでしょう。J-REITの投資主体別売買動向を見ると、投資信託はJ-REIT特化型ファンドを通じて買い越しが続いていますし、銀行も国債より利回りが期待できるJ-REITの投資を積極的に行っていますが、個人は売り越しが続いています。
個人の場合、公募増資などで得た新株が値上がりしたところで売却する傾向があるため、このように売り越し基調になるわけですが、分割が今後も進んで、より幅広い銘柄でJ-REITへの少額投資が可能になれば、個人が直接、投資して、長期保有する傾向も強まるでしょう。これは、J-REIT市場の需給改善にも大きく寄与します。したがって、J-REITの投資口分割は、今後も活発に行われるでしょう。
鳥井現在、J-REITの投資対象はオフィスビル、商業施設、住居、倉庫、ホテルが中心ですが、今年はヘルスケアREITが登場する可能性があります。これは、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を主な投資対象にして運用するJ-REITのことで、一部の銀行などがスポンサー企業として手を挙げています。
すでに日本は高齢化社会を超えて、超高齢社会に突入しています。この手の高齢者向け住居に対する関心は高まっていますし、マーケットもこれからさらに拡大していくでしょう。
そのため、この手の物件を組み入れて運用するJ-REITの上場が待たれているわけですが、その性格は安定運用を重視したものになると考えています。オフィスビルなどの場合、景気の好転と共に賃料の上昇が期待できるわけですが、ヘルスケアREITが投資対象としている有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、そうそう賃料を引き上げられるものではありません。
したがって、ヘルスケアREITの場合、賃料上昇による配当利回りの向上は期待しにくくなります。どちらかというと、安定した配当利回りを実現するタイプのJ-REITになるのではないでしょうか。
鳥井ひとつは長期金利の上昇です。たとえば銀行などは、長期金利が1%割れの水準で推移しているのに対し、J-REITの配当利回りが4%前後で推移しているのを評価して投資意欲を強めているわけですが、長期金利が本格的に上昇すれば、J-REITの配当利回りとのスプレッドが縮小します。これは、J-REITへの投資意欲を後退させるきっかけになるでしょう。
もちろん、長期金利が上昇しても、賃料の引き上げが順調に行われれば、J-REITへの投資意欲が冷え込むこともないと思われますが、賃料引き上げが進まなければ、マーケットは低迷する恐れが出てきます。実際、2013年の3月から5月にかけて、東証REIT指数は1,700ポイントから1,250ポイント前後まで大幅な調整を余儀なくされていますが、この時は長期金利が0.5%割れから1%手前まで上昇するなか、賃料の上昇が全く期待できない環境下にありました。つまり、長期金利が上昇すると共に、賃料引き上げ期待が高まらない状況が、2014年のJ-REIT市場にとって最大のリスク要因になると考えます。
3月にかけて東証REIT指数が1,550ポイントに達した段階で、賃料上昇の兆しが見えているかどうかという点に注意してください。そこで賃料上昇の兆しが見えていれば、2014年のJ-REIT市場も1,800ポイントに向けて堅調に推移するはずです。
掲載日:2014年1月14日
鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト
大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券)において
年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、
2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。
InstitutionalInvestor誌「All-JapanResearchTeam」REIT部門で2012年、
2013年ともに1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター
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