東京証券取引所のインフラファンド市場は、2015年4月に創設され、2025年4月現在で5銘柄が上場しており、そのすべてが太陽光発電設備といった再エネ発電設備を投資対象にしています。今回はインフラファンドが保有する太陽光発電設備を実際に訪れ、具体的にどのような設備で構成されているのか、太陽光発電事業における現状の課題と今後求められる対策などを含めて解説します。
訪れたのは、ジャパン・インフラファンド投資法人(9287)が保有する山口美祢太陽光発電所。お話を聞いたのは、同発電所のテクニカルレポートを提供した三井化学株式会社の新事業開発センター データソリューション室 室長の徳弘淳氏と、同投資法人の資産運用会社であるジャパン・インフラファンド・アドバイザーズ株式会社 再生可能エネルギー部 副部長のリー伸隆氏です。
7台のPSCで7メガワットを出力
山口美祢太陽光発電所
――徳弘さんは、ここ山口美祢太陽光発電所のデューデリジェンスを行ってテクニカルレポートを発行していますね。
徳弘氏はい。テクニカルレポートでは太陽光発電所の立地や設置方法、パネルの数なども含めて評価します。ポイントは大きく2つで、1つは発電所が設計通りに造られているか、もう1つは保守・メンテナンスが適正に行われているか含め実際の稼働状況の確認・評価です。当社ではこれまで、累計3,500件ほど太陽光発電所のデューデリジェンスを行っています。
――豊富な実績によって、太陽光発電所を相対的に評価できる視点もあるということですね。これが変電所ですか(※1)。思ったよりも大きいです。

※1:山口美祢太陽光発電所から中国電力へ系統連系する特高変電所
徳弘氏当発電所の発電出力は7メガワット(7,000kW)です。2メガワット以上は特別高圧(特高)と呼ばれ、発電所の中でも大規模な施設ということになります。
リー氏全部で7台のパワーコンディショナー(PCS)がサブステーション(変電所)として稼働しています(※2)。太陽光パネル総数は30,008枚。パネルで発電されたDC(直流)697Vの電圧力を、サブステーションでAC(交流)に変換して6,600Vまで昇圧します。そして、再度ここで系統用の66,000Vまで昇圧して中国電力へ送る仕組み。万が一の場合に系統側への送電を止める、ガスを使った遮断器(※3)も設置されています。

※2:全部で7台設置されているPCS

※3:アーク放電も防ぐことができるガス遮断器
徳弘氏特高発電所は法律で、常駐の電気主任技術者が必要です。
リー氏具体的には、「必要時に2時間以内に現場へ到達可能な体制」ということなのですが、当発電所では30分程度で専任の電気主任技術者が現場に行けますし、巡視点検を委託している協力会社は、発電所から5分程度の場所にあります。
大きく向上しているパネルの出力変換効率
セルの構造進化と大型化で2倍になるケースも
――早速、太陽光パネルを見ていきましょう。パネル自体も進化していると聞きましたが。

※4:広大な敷地に整然と設置された太陽光パネル
徳弘氏そうですね。日進月歩で進化しているといっていいでしょう。当発電所のパネルも電力を供給開始した2017年当時としては高いレベルだったと思いますが、今では出力変換効率など出力がだいぶ向上しています。(※4)
当時はシリコンなどの単結晶、多結晶、薄膜系などセル(発電素子)の結晶タイプで区別されていましたが、最近はセルの構造そのものが工夫されて、従来よりも高い変換効率を実現するトップコン(TOPCon=トンネル酸化膜パッシベーションコンタクト)セルなども出てきています。
――どのくらい進化しているのですか。
徳弘氏例えば、当発電所のパネルの変換効率は17.8%ですが、現在は20%を超えているものを多くなっています。ここに設置されているパネル1枚の出力は285ワットですが、今ではパネルのサイズが大きくなり、かつ両面で受光するタイプが主流になっており、1枚600ワットぐらい出るものもあります。
――2倍以上ですか。相当に進化していますね。
徳弘氏これは日射計です(※5)。温度計(※6)とともに発電所には必ず設置されるものになります。パネルの発電量は日射量と気温に左右されるので、どれだけ発電できているのかを常時確認しています。ある程度涼しい方が発電効率はよく、日本だと夏の日射量は当然多いのですが発電量としては意外と多くありません。むしろ春先の方が発電量が多くなるのが一般的です。当発電所だと、だいたい5月が年間発電量のピークになっています。

※5:日射計

※6:温度計
リー氏このパネルの最大出力温度係数は0.39%、つまり気温が1℃上がると0.39%出力が下がります。1パネルで285ワットを気温25℃で出力する仕様ですから、夏に25℃から上がっていくと出力が下がっていきます。従いまして、温度を把握することで発電効率の管理が行えます。
パネル清掃で効率向上もコストが課題
沈砂池を3か所設けて土砂災害に対応
――パネルは基本的に南を向いているのですね。
リー氏基本はそうです。このエリアはもともと炭鉱のボタ山だった場所を活用していることから障害物が少なく、立地はとてもよいと思います。
発電所は基本的に障害物が少ない場所に造りますが、土地の傾斜や植生などによってEPC(太陽光発電所の設計・調達・建設を請け負う)業者がパネルの配置や角度などを調整します。当発電所のパネル設置角度は20度です(※7)。

※7:20度で統一されたパネル設置角度
なお、当発電所に限らず、インフラファンドが保有する太陽光発電設備は、ゴルフ場跡地といった遊休土地に設置するなど、未利用地の有効活用に貢献している事例も多いです。加えて、太陽光発電設備の建設にあたり、地元の事業者との協働が不可欠であるほか、パネルの設置に伴う償却資産税の支払いを通じて、自治体の財源確保にも繋がっているので、地域経済の活性化に貢献している面もあります。
徳弘氏パネル角度には、発電効率の他にパネルの汚れを流し落とす効果もあります。風雨によるセルフクリーニングです。
リー氏そうですね。例えば樹木や黄砂、鳥糞、虫の死骸などで影ができると、その部分だけ抵抗が生じてしまいます。その結果、電気の流れが止まって発熱し、パネルの劣化が進むのです。
徳弘氏パネル表面をクリーニングすることで発電効率が10%ほど改善したケースもあるようです。
リー氏文献等によれば、汚れが残りやすいパネルでは年に2~3回清掃した方がいいという指摘もあります。ただし、費用対効果を考えると難しいところはであります。
でも、当発電所は問題ないと思います。パネルの傾斜角が20度で汚れが比較的落ちやすいし、標高160~170mのボタ山だった場所で風通しもいいですから。
――なるほど当発電所の立地条件はいいわけですね。一方、樹木が少ないボタ山だったことで雨による水害や土砂流出の可能性も考慮する必要がありそうですが。

※8:特高発電所における沈砂池の数やサイズは法律で決められている
リー氏そのために土砂等を沈殿させて取り除く沈砂池を3か所設けています(※8)。この下にも集水桝があって、かなり大きなパイプで下流の川に排水しています。もともと水捌けがいい土地なので、水浸しになる可能性は極めて低いと思います。
特高発電所の設置には、自治体の開発許可が必要となる場合があります。その過程で、雨量計算して設置しなければならない沈砂池のサイズが法律で決まられていますし、地元と協議して数やサイズを増やすケースもあります。
――特高発電所だからこそ、きびしい基準をクリアしなければならないということですね。
最新テクノロジーを活用して既存施設を刷新
「リパワリング」で発電効率が20%向上も
――これだけ広くて立地条件がよいと、パネルを増設して発電出力を上げることもできそうです。
リー氏それは現実的ではありません。現行のFIT制度(固定価格買取制度)では、3%もしくは3キロワット以上の増設になると、その分の電力買い取り単価が変わってしまうというルールがあるのです。
徳弘氏電力会社との契約でも、申請した電力出力を変えてしまうと契約をやり直ししなければなりません。補助金もまったく違った金額になってしまいます。そこで現在は、出力容量を変えずに設備を入れ替えて発電効率を上げる「リパワリング」が盛んになりつつあります。
――設備をより高効率のものに刷新すると。
徳弘氏そうです。FIT制度がスタートしたのが2012年。10年以上経って、スタート当初に設置された設備の老朽化が進んでいます。進化した設備への刷新に加え、架台設計等含めたトータルで見直しを行うことで、発電効率が経年劣化した分以上に向上することが多いのです。弊社の診断実績において、多くのケースで発電効率が25%程度向上しています。最後は電力事業者が費用対効果で判断することになると思いますが、リパワリングは今後、ますます盛んになっていくと思われます。当社ではリパワリングの効果に関する知見を蓄積していますので、活用して頂ければありがたいです。
――最新テクノロジーを取り入れた運用管理と保守点検の重要度が増しているのですね。
リー氏そうですね。例えばPCSも経年劣化で性能が落ちたり、トラブル発生率が上がったりします。ケーブルも熱で劣化しますし。大きな定期点検は10年ごとなど設備メーカーによって違っているのですが、きちんと冷却されていないと劣化も早まります。定期的なメンテナンスで、冷却ファンやフィルター、中の基盤を換えたりしています(※9)。

※9:各PCSに4台格納されているインバーター(電力変換器)
リパワリングでいうと、例えば当発電所で使っている7台の1メガワットPCSを、50キロワットの小さくて最新のPCSを多数設置する形に変える。小さいPCSは仕様によってはヒューズレスや冷却ファンレスだったりするので、トータルの発電効率やコスト面で有利だったりします。そのため、最近は“小型分散型”でリパワリングするケースが多いです。同時に太陽光パネルも前述の新しいタイプにすれば、なおさらです。
FIT終了後の長期安定運用に向けて
O&Mやアセットマネジメントの役割が拡大
――昨今では金属価格の高騰などの影響で、銅線ケーブルの盗難が問題になっています。その対策は。

※10:警備会社と24時間繋がっている防犯カメラ
リー氏その点は十分に考えています。発電所の周囲をフェンスでしっかり囲っているだけでなく、警備会社の遠隔監視カメラと赤外線センサーを多数設置して、24時間モニターしています(※10)。特に当発電所は敷地までのアクセスが難しく、途中にあるゲートも通常は閉じています。自動車で入ることはほぼ不可能になっています。
徳弘氏発電設計だけでなく防犯対策を含めて、当発電所は過去にデューデリジェンスを行ってきた施設の中でもレベルが高いと思います。
リー氏PCSの配置やメンテナンスを考えた通路設計など、EPCの前田建設工業の経験と技術力の高さは流石だと感じています(※11)。

※11:各種機器とメンテナンス通路がゆったりと配置されている
徳弘氏FIT制度が始まった2012年から、国による買取価格(調達価格)は年々下がってきました。当初はFITの手厚い補助金を前提とした投資目的のみで造られた太陽光発電設備も少なからずあったと思います。現在は、出力制限による影響も深刻になっており、FIP転換や蓄電池併設等、事業性を見直す様々な検討が活発になっていますが、いずれにせよ、そもそも太陽光発電は持続可能性を追求した再生可能エネルギー事業です。今後は継続的に稼働していく長期安定運用の視点が、より重要視されるでしょう。
国としても継続的に長期運用を行う発電事業者を選定して、そこに集約していこういという流れになっています。
施設が古くなったら発電事業を止める、利益拡大が見込めないから止めるのではなく、テクノロジーを最大限に活用して既存施設の効率化を図り、長期安定運用で太陽光発電事業の収益をきちんと積み上げていく。そのためには、テクノロジーの進化に合わせた定期的な施設のアップデートは欠かせません。
これまでお話してきたように、施設のオペレーションとメンテナンスを請け負うO&Mや、太陽光発電所の運用効率の最大化や中長期的に利益を伸ばすために必要な管理業務を行うアセットマネジメントが果たす役割が、これまで以上に大きくなっていくでしょう。弊社としてもそういった課題に貢献できるサービスを提供していきたいと考えています。
――お2人とも丁寧なご説明と貴重なご意見、ありがとうございました。

三井化学株式会社 新事業開発センター データソリューション室 室長 徳弘淳氏

ジャパン・インフラファンド・アドバイザーズ株式会社 再生可能エネルギー部 副部長 リー伸隆氏
●山口美祢太陽光発電所の施設概要(2025年4月現在)
所在地 | 山口県美祢市大嶺町奥分字上筈畠 |
---|---|
パネル出力 | 8,552.28kW |
パネル設置数 | 30,008枚 |
発電出力 | 7,000.00kW |
買取価格 | 40円/kWh |
調達期間満了日 | 2037年8月31日 |
買取電気事業者 | 中国電力株式会社 |
オペレーター | 丸紅株式会社 |
O&M業者 | 株式会社Looop |
EPC業者 | 前田建設工業株式会社 |
パネルメーカー | LG Electronics Japan株式会社 |
稼働初年度想定設備利用率 | 13.95% |
土地面積 | 180,479.20㎡ |
土地の権利形態 | 賃借権 |


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