■Event Report
【J-REIT】
平和不動産アセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 平野 正則氏
みずほリートマネジメント株式会社 代表取締役社長 鍋山 洋章氏
平野氏新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた当初、テレワークが一気に浸透しました。当初はオフィス需要の減少という警戒感がありましたが、2年経ってみると恐れているほどではないなという認識です。
人の動きを最も端的に表しやすいとされる保有ビルの水道使用量の推移を見ていますが、21年の10月にはコロナ禍以前の水準まで戻る傾向も見られました。オミクロン株がここまで増えてくると、また少し在宅勤務が増えるかもしれませんが、まったく出社しなくていいという風潮は、後退したように思えます。
鍋山氏コロナ禍の影響は約2年という長期にわたります。この間、テレワークを含めた働き方改革はずいぶん進みました。オフィス市況については悲観的に語れることが多かったですが、一方で対面コミュニケーションや人材育成などの面で限界があるという指摘も出てきました。人と人とのコミュニケーションを通じて新たな価値を創造していくやり方が重要だと、再認識されたイメージをもっています。
企業によってはコロナ禍が落ち着いたころに出社率を戻したいという動きもあります。今後はコロナとの共生・共存という意味から、さまざまなタイプのオフィスでの働き方が揃っていくでしょう。
平和不動産アセットマネジメント株式会社
代表取締役社長 平野 正則氏
平野氏首都圏の対応は早かったと思います。大企業が多いし、地方は住職接近しているので通勤に時間がかかりません。会社でも自宅でも、働き方にそう大きな違いがないわけです。地方における在宅勤務は、東京よりは浸透していないようです。
多くの地方圏は支店経済です。東京の考え方が、これから地方へ波及するでしょう。オフィスが不要になるというより、働く環境がより整えられる、より働きやすい環境になっていくというイメージです。コロナ禍をきっかけに、働く環境整備のスピードが速まったということだと思います。
平野氏とくに東京においてオフィスの新規供給は今後、非常に増えていくでしょう。開発案件が大型化している特徴があり、現在でも常盤橋や浜松町、八重洲、日本橋、虎ノ門など30万~50万平米を超える規模のものがつくられています。
オフィス供給に関しては2023年が鍵といわれていますが、この年だけでなく大型物件が供給される計画です。J-REITはこれまでもしっかりした運営・管理がなされてきましたが、今後は立地や賃料水準の見立てなどビルによって差別化が進むかもしれません。
鍋山氏2003年、12年、20年など過去にもオフィスビルの大量供給がありました。一時的な空室率上昇や賃料の調整局面はあったにせよ、乗り越えてきた実績があります。東京23区における大規模オフィス(5000坪以上)のストックは旧耐震基準のビルでも100万坪程度ありますが、これらを含めて、ある程度の期間をかけてマーケットで消化されると見ています。
鍋山氏直近で東京から人口が流出しているかのような報道もありますが、東京の利便性や経済の集積などからすると、賃料水準の訂正が図れれば、いずれまた人が集まっていくでしょう。大きな懸念材料とは思っていません。
平野氏東京の開発は、日本だけの問題ではなく世界との競争という観点が必要でしょう。日本のことだけ考えるなら、もしかしたら需給の緩みは生まれるかもしれません。しかし、アジアや世界のなかの日本を見た場合、東京の開発や成長は必要だと感じています。
平野氏これまであった都心の飲食店従業員の需要、外国人の需要、学生の需要、金融機関従業員のセカンドハウスの需要などが一時的に減退することで、都心のシングルタイプは苦戦中と見受けらます。しかし、日本の人口動態が変わったかというとそうではありません。核家族化は依然として進行しており、“おひとりさま”は減っていません。コロナ禍の終焉とともに、このあたりの需要は一定程度復活してくるだろうと見ています。
分譲住宅や中古住宅の価格が非常に上がっています。この価格まで追いつけないと考えるファミリーが、賃貸に住むケースが新しい需要として生まれるかもしれません。
また、人件費や材料費の価格高騰を見ると住宅価格はまだまだ上がるかもしれません。コロナ禍もありますが、海外の住宅価格と比べると賃貸・分譲ともに価格は高いとはいえない水準で推移しています。住宅価格は、もう一段高いところにいく可能性を秘めています。
鍋山氏最近とくに投資家の関心が高まっており、ESGに特化したミーティングを要請されることもあります。お金を預かって運用する以上、ESGやSDGsは無視できない存在です。物件の環境性能を向上させて社会的な基盤整備に注力するとコストはどうしてもかかりますが、これを軽視すると出資してもらえないしテナント候補からも選ばれません。結果として、投資主価値にも影響を与えてしまいます。サステナビリティは、われわれ運用会社の立場から見ても注力すべきポイントになっています。
グリーンボンドもその一環です。最近は22年1月に30億円のグリーンボンドを発行しました。一般事業会社のボンドはそうでもありませんが、いまJ-REITが発行するボンドの7割がグリーン関連。証券会社の方と話をすると、投資家の立場からするとグリーンかそうでないかは選考要因のひとつになっているということです。
これは世界の流れでもあります。2020年くらいから海外投資家の資金がJ-REITに入ってきました。現在の海外投資家の資金比率は25%ほどで、純然たる個人投資家の資金は8%程度。それに加えて投信からも資金が入りますが、依然として海外投資家の寄与度が高くなっています。日本の不動産市場もグローバルスタンダードに合わせていかないと、資金確保に障害が出てくるでしょう。
平野氏CO2削減の意味でも、再生可能エネルギーへの転換は大きなテーマになるでしょう。耐震性能を重視する動きは1980年代からありますが、テナントさんは基本的に新耐震基準の物件でないと入りにくい現状です。現在は、欧州でサステナビリティが重視されているという理由かもしれませんが、CO2削減に関しては今後、国内でもますます重視されていくととらえています。
この動きが後退することは考えられません。私どもが先陣を切って取り組むことで、実態としてはもちろん、企業イメージもしくは投資法人のイメージアップにもつながります。戦略的に取り入れていきたいと考えています。
鍋山氏機関投資家の比率が高いですね。投信は個人が25%、金融機関が25%くらい。J-REIT投資家の7~8割は機関投資家です。個人投資家の裾野をどれだけ広げることができるか、これは業界全体の課題ではないでしょうか。
透明性が高くプロが運用するJ-REITで4%近くの配当利回り。機関投資家も個人投資家もJ-REITに投資するメリットは大きいと思います。J-REITの向こう側には、実物資産の不動産がありますし。また、上場61銘柄には、オフィスや住宅、ホテルなどさまざまな種類があり、投資家の投資戦略と志向に合わせて選ぶことができます。これも、個別の不動産投資ではできないメリットといえるでしょう。
平野氏個人投資家が増えてほしいですね。流動性を高めることで、投資法人の運用能力も高まるでしょうし。考えていただきたいのは、不動産そのものに魅力があるということ。大きなビル、風光明媚なホテル、世の中に役立つ物流施設などに個人が投資するのは簡単ではありません。これらの不動産を持つ喜びがあるはずです。ここにも着目していただきたいですね。
みずほリートマネジメント株式会社
代表取締役社長 鍋山 洋章氏
鍋山氏22年3月に向けて、米国の金利上昇がひとつの材料になるでしょう。米国は経済の回復が早く、賃金が上がって購買力も上がりました。インフレ抑制のために金利をコントロールしようということです。一方の国内はまだまだ。物価は徐々に上がっていますが、現在はサプライチェーンが混乱して需給のバランスが取れていないことが物価上昇の背景にあります。賃金や購買力ではありません。日銀も早々には、金融引き締めに向かわないでしょう。
J-REITも株式も、現在は価格変動が激しい状況です。仮にJ-REIT価格が影響を受けて軟調になっても、投資の利回り水準が上がることになります。東証REIT指数が1800に近い水準になると、全銘柄の利回りは4%くらいになるので、個人投資家から見ると買いのチャンスかもしれません。中長期の投資を前提にすると、金利動向を気にせず投資できるのでは。
もちろん金利が今後、上がる可能性はあります。そうなったら国内経済が強くなっているはずなので、オフォスや住宅、商業施設の賃料水準や収入も上がり、配当も上がると思われます。金利は景気がいいから上がるわけで、金利上昇分は賃料利回りの上昇でおそらく補えるだろうと。国内金利の動向はあまり気にしていません。
運用会社の立場でいえば、いつ金利が上がってもいいように、低金利のうちに長期の社債の発行を通じて固定金利のウエイトを増やしています。ちなみに、わたしども発行したグリーンボンドは10年債で固定金利。J-REITは財務戦略面でも、金利上昇への抵抗感は強いという特徴があります。
鍋山氏J-REITは法制、税制ともに整備された透明性の高い枠組みです。また、不動産は従前からインフレ耐性のある資産といわれています。プロが不動産を運用して魅力ある配当を投資家の皆さまに受領していただけるよう、投資主価値の向上へこれまで以上に全力を尽くしていきます。J-REIT市場にもっとたくさんの投資家の方々に参加していただけるようにアピールしていきたいと考えています。
平野氏SDGsやESGという言葉は、ややとっつきにくいイメージがあります。しかし、これは世の中の潮流であり、J-REITはその流れをどんどん取り込んでいきます。J-REITに投資することで、投資家の方々も大きな社会の流れに乗っていただくことになります。私どもも、人生100年時代における資産運用基盤になれるよう全力で取り組みます。
※本記事は登壇者の発言を記者が独自に取り纏めたものであり、登壇者の発言内容を正確かつ網羅的に記したものではありません。
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取材・執筆:K-ZONE
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