■Event Report
J-REITウェブIRの祭典
2022年1月29日(土)、「J-REITファン2022 オンラインwebセミナー」が開催された。昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止となったが、今回はオンラインによるwebセミナーの形で開催することができた。
出展社は「平和不動産リート投資法人」「Oneリート投資法人」「東海道リート投資法人」「オリックス不動産投資法人」「投資法人みらい」のJ-REIT5法人。オンラインwebセミナーとはいえ、識者の講演や出展社によるトークセッションなど、これまで同様のプログラムが提供された。
J-REIT価格は2022年に入って一時下落するなど、正しい現状認識のための情報収集が重要な時期といえる。資産ポートフォリオによる分散効果を継続的に機能させるためにも、今回提供されたプログラムは個人投資家にとって役立ったのではないだろうか。プログラムの一部を抜粋して紹介する。
主催:株式会社東京証券取引所(日本取引所グループ)
株式会社日経ラジオ社
株式会社プロネクサス
東京証券取引所 上場推進部長
永田 秀俊氏
東京証券取引所
上場推進部長 永田 秀俊氏
J-REIT市場の時価総額は約17兆円です(2021年末現在)。東証第一部の700兆円超と比べると少なく感じますが、第二部やJASDAQ、マザーズよりも大きい市場となっています。この時価総額は、グローバルに見ても米国のREIT市場に次いで2位の規模です。今日現在の上場銘柄は61銘柄。1銘柄平均の時価総額は2000億円~3000億円と株式市場よりも大きく、この点もJ-REIT市場の特徴のひとつといえるでしょう。
J-REITの正式名称は「不動産投資信託」。投資信託というよりも「不動産賃貸に特化した不動産会社」と考えた方がイメージしやすいと思います。投資法人が、投資家から集めた資金や金融機関からの借り入れによってオフィスビルや住居、物流施設、商業施設などの不動産を取得。その運用によって生じる賃料あるいは不動産の売却益を投資家に分配する仕組みです。
J-REITは比較的利回りが高いというイメージをもたれる方は多いと思いますが、それには合理的な理由があります。
一般の上場会社の場合は、事業会社の収入(売上高)から経費(コスト)を引いた利益から3割程度の法人税が引かれ、さらにその一部が内部留保され、残ったお金の一部が配当金として投資家に分配されます。配当を実施している第一部株式の平均利回りは21年末現在で1.86%です。
一方のJ-REITは、不動産賃料等収入からコストを引いた利益の90%以上を分配すると、実質的に法人税がかからない「導管性」という仕組みが採用されています。このため、ほとんどのJ-REITは利益の100%を分配しており、結果として分配金が高くなっています。21年末現在の全銘柄平均利回りは3.51%。株式に対して約2倍の水準です。
J-REITはさまざまなタイプの不動産に投資しており、投資先不動産の用途・種類によって収益特性が異なっています。ひとつのタイプに特化して投資するものを特化型リート、複数タイプに投資するものを複合/総合型と呼びます。最も古いのはオフィスに投資するタイプ。賃貸マンションなどの住居、ショッピングセンターなどの商業施設、物流施設、ホテル、シニア住宅などのヘルスケアなどが主な投資対象として挙げられます。
新型コロナウイルス感染症の影響で、タイプごとに市場からの評価が分かれました。たとえば、物流施設は巣ごもり消費の増加で通販が活発化、非常に堅調な値動きになりました。住居も景気動向の影響を受けにくい特徴が評価されて堅調に推移しました。一方、オフィスはコロナ禍によるリモートワークの定着や空室率の増加などが懸念され、一時的に大きく下落する場面もありました。どのタイプ(セクター)が好調になるかは、該当する不動産市場の環境によって変わるわけです。
▪️J-REITのタイプ別分類
J-REITの魅力を整理してみましょう。大きく3つあります。
1点めは、税引前の利益のほぼすべてを分配するので比較的高い利回りが期待できること。分配金の原資は不動産の賃料であり、比較的安定しています。
2点めは、比較的手の届く金額での投資が可能なこと。仮に実物不動産に投資するとなると、投資金額は数千万円から億円単位と非常に高額になります。複数保有は現実的に難しく、管理会社へのコストや修繕費も発生します。J-REITなら、銘柄によって一口数万円、数十万円程度から投資可能。不動産管理はプロにお任せできますし、複数の不動産を保有しているのでリスク分散もできます。つまりJ-REITは、実物不動産投資の代替商品としてメリットが享受できる金融商品といえます。
3点めは、株式と同様に全国の証券会社を通じて東証で売買できること。株式と同じ4ケタの証券コードが付番されています。流動性と換金性も高く、売りたいときにすぐ売ることができます。これは実物不動産投資との大きな違いであり、メリットでもあります。
一方のリスクもまとめます。
J-REITの価格は、市場の需給状況や金利情勢の見込みなど、さまざまな要因で変動します。株式と同様、元本や分配金が保証されていません。東証REIT指数の値動きを見ると、新型コロナウイルス感染症の拡大が見られ始めた20年3月には、前月比で半分くらいまで下落しました。分配金の減配もあります。
こうしたリスクは他の金融商品と似ていますが、不動産特有のリスクもあります。とくに日本では地震などの自然災害が多く、不動産の資産価値が急に毀損されるリスクもあります。2011年の東日本大震災では、J-REIT保有不動産の一部で建物破損などはありましたが、建物倒壊は聞いていません。J-REITが保有する物件は比較的、堅牢が多いのも特徴といえます。
各J-REITが想定するリスクは、目論見書に記載してありますので、それを理解したうえで投資を考えていただきたいですね。
リスクとは違いますが、1点申し上げておきたいことがあります。日本銀行による J-REITの買い入れについてです。
日銀は金融緩和政策の一環として2010 年以降、これまでに577回、総額6787億円の買い入れを実施してきました。J-REITの時価総額が17兆円程度なので、4%程度を日銀が保有していることになります。J-REITの個別銘柄すべてを買っているわけではありません。格付けや売買代金などの基準を設けて、各銘柄10%以内しか買えないというルールを設けていると聞いています。ちなみに、日銀による買い入れは2021年3月が最後で、それ以降は実施されておりません。
「ESG」は最近よく目にする言葉です。これまでは、機関投資家がESGへの取り組みに関心をもっていましたが、昨今では個人投資家のあいだでも投資評価の基準にする人が増えています。
J-REITは中長期での資産運用を行う観点から、環境不動産に対する関心が高い傾向があり、とくにE(Environment:環境)への取り組みが非常に進んでいます。例えば、オフィスに投資するJ-REITであれば、保有物件において、環境に配慮した取り組みを実施することで、コスト削減やオフィスビルにおけるESGを重視する企業の誘致などにつながるからです。
持続可能な社会の実現への貢献や投資主価値のさらなる向上を目指し、多くの J-REITが国際的な不動産認証機関であるGRESB(Global Real Estate Sustainability Benchmark=グレスビー)など ESG 関連の認証を取得しています(上場61銘柄中、55銘柄が取得)。
こうした環境への取り組みを使途としたグリーンボンドと呼ばれる債券や、ESG債(グリーンボンド、ソーシャルボンド、サスティナビリティボンド)の発行についても年々増加しています。21年はJ-REITが発行している債券の70%を占めるまでになりました。
J-REITの分配金利回りは 3.51%(2021 年 12 月末時点)と、相対的に魅力的な水準 となっています。海外株式と比べても、この水準は評価できるのではないでしょうか。別の観点では、J-REITの資金調達環境にもメリットが。J-REITは投資家からの投資資金に加えて、銀行など金融機関からも同額程度の借り入れを行っています。借入金利の低下によって資金調達コストが下がり、そのぶん分配金の向上が期待できるわけです。
低金利下にある現状は、J-REIT投資のメリットが出やすい環境にあるといえるのではないでしょうか。
最後にJ-REITに投資するETF(上場投資信託)を紹介します。
ETFとは取引所に上場している投信のことで、株式と同様に取引所に上場しており、これも4 ケタの証券コードが付番されています。東証株価指数(TOPIX)など特定の指標の動きに連動するよう運用・管理されており、個別銘柄の投資は難しいと感じている投資家にもおすすめです。今日現在で、東証REIT指数に連動するETFが10銘柄。その他のJ-REIT関連の指数に連動するETFが6銘柄、上場しています。多くの銘柄が数千円~数万円から投資できます。
※本記事は登壇者の発言を記者が独自に取り纏めたものであり、登壇者の発言内容を正確かつ網羅的に記したものではありません。
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取材・執筆:K-ZONE
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